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コラム
個人情報保護教育の基礎知識|研修内容や研修方法を解説
「個人情報の管理に不安がある」
「従業員の情報保護意識をどう高めるべきかわからない」
このような悩みをお持ちではないでしょうか?
個人情報保護は、企業の信頼を守るために必要不可欠です。本記事では、個人情報保護教育の必要性やその具体的な内容、実施する際のポイントについてわかりやすく解説します。
【CONTENTS】
1.個人情報保護教育の重要性について
個人情報保護教育は、どの企業にとっても欠かせない取り組みです。
日本では個人情報保護法が強化され、企業には法律に従って個人情報を適切に管理する義務があります。
また、デジタル化が進む中、企業が取り扱う個人情報の量は年々増加しており、その管理が不十分だと情報漏洩や不正アクセスなどのリスクが高まります。
実際に、個人情報保護委員会が発表したデータによると、2023年度の企業・行政機関からの個人情報漏洩件数は過去最多の「1万3279件」を記録し、被害が大きかった事例には是正勧告が出されました。
(個人情報保護委員会:令和5年度年次報告)
このような背景から、個人情報保護教育は単なる法律遵守だけでなく、企業の信頼性や競争力を高めるための重要な要素になったともいえるでしょう。
この章では、個人情報保護教育を実施する目的とその効果について具体的に解説していきます。
個人情報保護教育を実施する目的とは
個人情報保護教育を行う目的は、情報漏洩リスクを低減し、従業員の意識向上を図り、企業のイメージを向上させることにあります。
現代のビジネス環境において、個人情報は非常に重要な資産であり、適切に管理されない場合、企業の信用が失墜する可能性があります。そのため、従業員一人ひとりが個人情報の適切な取り扱い方法を学び、実際に日常業務にて管理を徹底することが求められます。
情報漏洩リスクの低減
個人情報保護教育を適切に行うことで、情報漏洩のリスクを軽減できます。従業員の不注意や誤ったデータ管理が原因で発生する情報漏洩を防ぐためには、日々の業務において個人情報を適切に扱う知識を身につけるのが最善です。
従業者の個人情報取り扱いへの意識向上
定期的に個人情報保護の教育を実施することで、従業員の個人情報取り扱いに対する意識を向上できます。従業員一人ひとりが、個人情報の重要性を理解し、その扱いに細心の注意を払うことで、企業全体のセキュリティが向上します。
企業イメージの向上
企業が個人情報保護教育に取り組むことで、企業全体の情報管理が徹底され、結果的に顧客や取引先との信頼関係や、企業イメージの向上にもつながります。顧客やビジネスパートナーに安心感を与え、取引や信頼関係の強化も期待できるでしょう。
個人情報保護教育は会社の義務?
2022年の改正個人情報保護法では、企業規模や業種に関係なく全企業に対して「個人情報保護教育の実施」が義務付けられています。この法律に基づき、企業は従業員に対して定期的な研修を提供し、法令を遵守するための体制を整える必要があります。
さらに、違反した際のペナルティも見直されており、個人情報の取扱いに関する違反が発覚した場合のリスクが以前にも増して高まっています。
プライバシーマーク取得企業は年1回以上の教育が必須
プライバシーマークを取得している企業は、年1回以上の個人情報保護教育の実施が義務付けられています。
プライバシーマークは、個人情報の適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者に対して付与されるマークで、企業の信頼性を高めるために重要な役割を果たしています。
プライバシーマーク取得企業は、個人情報保護教育の実施に加えて、個人情報の取扱いに関する社内規程の整備や、個人情報の漏えい防止対策の実施など、より高度な個人情報保護の取り組みが求められます。
2.個人情報保護研修の内容
企業が従業員に対して実施する個人情報保護研修では、個人情報保護法による個人情報の取り扱いに関する基本的なルールをはじめ、情報漏洩時の対応や、最新の事例を学ぶことで、企業全体の情報管理体制を強化します。
個人情報保護法を理解する
個人情報保護法は、個人情報の取り扱いに関する基本的なルールを定めた法律で、個人の権利や利益を保護するために制定されました。この法律に従って、企業は個人情報の適切な収集、利用、管理、保管、削除を行う義務があります。
特に、個人情報を取り扱う従業員は、その取り扱い方や、情報漏洩が発生した場合の対応について正しく理解しておく必要があります。
「個人情報」の定義とは?
個人情報保護法における「個人情報」とは、特定の個人を識別できる情報を指します。例えば、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど、直接的に個人を特定できる情報がこれに該当します。また、他の情報と組み合わせることで、個人が特定できる情報も個人情報に含まれます。
例えば、社員番号や顧客IDも、他のデータと照合することで個人を識別できるため、個人情報として保護されます。総務省が発表しているガイドラインでも、個人情報の取り扱いに関する詳細な基準が示されています。
企業が求められている個人情報の取り扱い義務とは
企業は、個人情報保護法に基づき、個人情報の管理体制を整備する義務を負っています。個人情報の収集や利用には、必ず目的を明示し、適正に行わなければなりません。また、収集した情報は安全に管理し、不正なアクセスや漏洩を防ぐためにセキュリティ対策を講じる必要があります。
情報の第三者提供に際しては、事前に本人の同意を得ることが義務付けられており、この手続きが守られていない場合、企業は罰則を受ける可能性があります。
個人情報保護法に違反した場合の罰則とは
個人情報保護法に違反した場合、企業は法的な制裁を受ける場合があり、違反内容に応じて数百万円の罰金や業務停止命令が下されるケースもあります。また、重大な情報漏洩が発生した場合、企業は取引先や顧客からの信頼を失い、社会的信用を失墜させるリスクもあります。
個人情報保護委員会による取り締まりも強化されており、違反に対する対応が厳格化しています。そのため、企業は従業員への教育を通じて、常に法令を遵守するよう努めなければなりません。
個人情報漏洩によるリスクを知る
企業が個人情報を適切に管理しない場合、情報漏洩が発生するリスクが高まります。情報漏洩の原因や、実際にどのようなリスクが伴うのかを知ることで、適切な対策を講じていく必要があります。
個人情報漏洩が起こる原因や事例を知る
個人情報漏洩は主にヒューマンエラーや不正アクセスによって引き起こされます。
例えば、従業員が誤って顧客の個人情報を含むファイルを外部に送信したり、パスワード管理が不十分なために外部から不正にアクセスされたりするケースがあります。
情報漏洩のリスクは、これらのヒューマンエラーやセキュリティの甘さから生じる場合が多いです。
具体的な事例として、2014年、教育業界の大手企業が約2900万人の顧客の個人情報を漏洩させた事例があります。サービス利用者情報を中心に、子どもの名前や生年月日、住所、親の名前や連絡先など、非常にデリケートな情報が含まれていました。
該当者には500円分の金券をお詫びの品として発送。顧客らは1人当たり5万5千円の損害賠償を求めた訴訟を起こし、東京地裁は漏洩を認めた4,027人に1人当たり3,300円、総額で約1,300万円を支払うよう命じました。
個人情報が漏洩した際に起こるリスクを知る
上記で述べた「法的な制裁以外」にも、個人情報の漏洩によって、企業にはさまざまなリスクが発生します。
① 情報が悪用されるリスク
漏洩した情報を悪用された場合、二次被害が発生してしまうリスクがあります。
② 顧客や取引先からの信頼を失うリスク
情報漏洩は、企業の管理体制が不十分であると判断され、顧客離れが発生する原因となります。
③ 経済的損失を負うリスク
事業停止、顧客への賠償金の支払い、インフラ修正にかかる費用、さらには信頼回復のためのマーケティング活動など、これらのコストが企業経営に大きな影響を与えます。特に中小企業にとっては、このようなコスト負担が経営に深刻なダメージを与えることも少なくありません。
具体的な対策を学ぶ
企業が個人情報を適切に管理し、情報漏洩を防ぐためには、具体的な対策を学び、従業員一人ひとりが注意を払いながら業務を遂行することが求められます。
以下に、日常業務での注意点や、情報漏洩が発生した際の対応について詳しく解説します。
個人データの漏洩を防ぐための対策を学ぶ
まず社内でのセキュリティ体制を強化し、情報漏洩に対する理解を深めることが重要です。具体的な対策例としては、次のような方法が考えられます。
・パスワード管理の徹底 |
定期的なパスワード変更や、強固なパスワードを設定することで、不正アクセスを防止します。 |
・ アクセス権限の制限 |
業務に必要な従業員のみが個人情報にアクセスできるよう、アクセス権限を細かく設定します。 |
・ データの暗号化 |
個人データを暗号化することで、万が一、情報漏洩した際に第三者に悪用されるリスクを低減します。 |
・ 定期的なアップデート |
OSアップデートなど、各ソフトウェアを常に最新のバージョンを保つことで不正アクセスを防止します。 |
これらの対策を講じることで、企業は個人情報を守り、情報漏洩のリスクを最小限に抑えます。
日常業務において注意すべき点を知る
日常業務でのちょっとしたミスが、大きな情報漏洩につながる可能性もあります。個人情報を扱う上で、従業員が日常的に注意すべきポイントを以下にまとめます。
・メール、資料の宛先確認 |
個人情報が含まれるメールや資料を送る際は、必ず宛先を確認(Wチェック)し、誤送信を防ぎます。 |
・ファイルの取り扱い |
個人情報を含むファイルを共有する際は、パスワード付きのファイルを使用し、外部への漏洩を防止します。 |
・不要データの削除 |
不要になった個人情報は、適切な方法で速やかに削除し、データの漏洩リスクを減らします。 |
・個人デバイスでのデータ管理 |
業務で個人デバイスを使用する際は、適切なセキュリティ設定を施し、情報が外部に漏れないようにします。 |
上記は一例ですが、日常業務で起こりうるミスを洗い出し、どのように注意して業務に取り組むべきかを従業員に周知しましょう。
個人情報漏洩が起きたときの対応を学ぶ
万が一、個人情報漏洩が発生した場合、迅速かつ適切な対応が必要です。ここでは、情報漏洩時に取るべき具体的な対応やその手順について説明します。
①情報漏洩の現状を把握する
漏洩が発生した場合に最初に行うべきことは、漏洩した情報の範囲や被害の規模を正確に把握することです。
例えば不正アクセスの場合、社内のセキュリティ担当者やシステム管理者と連携し、漏洩の原因、影響を受けたデータ、どのシステムが侵害されたかなどを速やかに確認します。こうした初動対応を迅速に行うことで、二次被害や被害の拡大を防ぐことが可能です。ヒューマンエラーによる情報漏洩の際も同様です。
- ・漏洩の発生場所と影響範囲を調査
- ・どの個人情報が漏洩したか特定
- ・関係部署やセキュリティ専門家と連携して詳細を把握
これらの初期調査を迅速に行い、どの範囲に影響があるのかを明確にすることが、今後の対応を決定する基盤となります。
②二次被害が起こらないよう応急処置を行う
次に、二次被害が発生しないように、早急に応急処置を講じます。具体的には、漏洩経路を遮断し、外部からのアクセスを防止するための措置を取ります。システムのアクセス制限やデータの暗号化を強化し、不正アクセスが続かないようにします。
以下は、応急処置の例です。
- ・漏洩が確認されたシステムの一時停止
- ・アクセス権限の見直しと制限
- ・侵害されたアカウントのパスワード変更
- ・データのバックアップやシステムの復元作業
このように、漏洩の拡大を防ぐための具体的な応急措置をすぐに実施することが重要です。
③原因を追及し、今後の対応を検討する
応急処置を行った後は、漏洩の原因を追及します。システムの脆弱性やヒューマンエラーなど、漏洩が発生した根本原因を特定し、再発防止策を検討します。このステップでは、内部の監査や外部のセキュリティ専門家を招いて、詳細な調査を行うことが有効です。
以下は、調査内容の例です。
- ・漏洩の原因となった脆弱性の特定
- ・システムや従業員の操作ミスの検証
- ・再発防止に向けた強化策の策定
これにより、同様の漏洩が将来にわたって発生しないよう、組織全体で改善策を講じることができます。
④関係者に報告・連絡を行う
情報漏洩が確認された場合、関係当局や影響を受けた顧客、取引先に対して迅速に報告を行う必要があります。(2022年の個人情報保護法改正により、個人情報保護委員会への報告と本人へ通知が義務化)
被害者に対しては、漏洩の事実を説明し、被害が最小限に抑えられるように支援します。
- ・影響を受けた顧客や取引先に対して、詳細な漏洩内容を説明
- ・ 関係当局へ報告し、必要な指導を受ける
- ・社内外に向けて、透明性を保った情報開示を行う
このように、個人情報漏洩が起こった際は適切な対応や処置を行うことが求められます。そのため、万が一の際の対応の流れを整理し、教育内容に反映すると良いでしょう。
3.個人情報保護教育の方法
個人情報保護教育を実施する際には、自社の規模や業種、従業員の雇用形態などを考慮して、最適な方法を選択する必要があります。ここでは、代表的な教育方法である4つの方式について詳しく解説します。
パワーポイントや動画を使った講義方式
講義形式は、講師(もしくは社内担当者)が従業員に直接指導を行う一般的な方法です。パワーポイントや動画を用いることで、視覚的に理解しやすくなります。この形式の主な特徴は以下の通りです。
- ・講師と受講者が直接対話できるため、コミュニケーションがとりやすい
- ・受講者の反応を見ながら内容やスピードを調整できる
- ・質疑応答の時間を設けることで、理解度を確認しながら進められる
メリットとしては、直接対話を通じて、より深い理解が得られる点が挙げられます。ただし、全社員が一斉に受講するためにはスケジュール調整や場所の確保が必要です。
最近ではオンラインで実施されるケースも多いです。
eラーニングを用いた全社一斉教育
eラーニングは、インターネットを活用して教育コンテンツを提供する方法です。特に従業員数が多い場合や、パートや・アルバイト、店舗スタッフへの教育が必要な場合も実施しやすいでしょう。
- ・受講者が時間や場所に縛られず、自分のペースで学習を進められる
- ・管理システムを通じて、学習の進捗状況や理解度を把握できる
- ・コンテンツの更新や追加が簡単で、最新情報をすぐに提供できる
全社員に一律の教育を実施できる点が利点で、学習履歴の管理により未受講者へのフォローがしやすい一方、受講者の反応が見えにくいため、修了テストなどで理解度を把握することをおすすめします。
テキストを用いた自習方式
自習方式では、学習用のテキストやマニュアルを配布し、各自が自分のペースで学ぶ方法です。以下がこの方式の特徴です。
- ・自分のペースで学べる
- ・テキストを手元に残し、いつでも見返せる
- ・時間や場所の自由度が高い
手元に資料がありいつでも見返すことができますが、あくまでも一方的な配布になるため、進捗管理や理解度の確認が難しい点が課題です。
部署やチームでのディスカッション方式
ディスカッション方式では、講義やeラーニングで得た知識を基に、チームや部署内で個人情報保護について議論します。この形式の特徴は次の通りです。
- ・事前に学んだ知識を活かし、実践的な議論が可能
- ・チームの業務に即した事例を取り上げ、理解を促進できる
- ・メンバー同士の意見交換により、意識が向上する
この形式のメリットは、実務に基づいた具体的な議論が行える点です。チームの特性に応じた対話を通じて、業務への理解が深まります。
4.個人情報保護教育における注意点
個人情報保護教育を実施する際には、企業の状況に合わせた方法を選び、最新の情報に基づいた継続的な教育が求められます。また、従業員の意識を高め続けるための工夫も重要です。
自社に合った研修方式を選ぶ
効果的な教育を実施するためには、自社に適した方法を選ぶ必要があります。企業の規模や業種、従業員の数に合わせた最適なアプローチを選択しましょう。
会社の規模や従業員数で決定する
研修方式の選択には、会社の規模や従業員数が大きく影響します。大企業であれば、eラーニングを活用した全社一斉の教育が効率的である一方、中小企業では、講義形式の方が適している場合もあるでしょう。
社内リソースに合わせて外部講師やeラーニング講座を利用する
自社だけでは十分な教育体制を整えられない場合、外部講師やeラーニング講座を活用するのも1つの方法です。特に、個人情報保護に関する専門知識が社内に不足している場合、外部リソースを有効活用することで、より効果的な教育が期待できます。
i-netschool(アイネットスクール)が提供する「個人情報保護」のeラーニング講座では、個人情報保護法の基礎知識から情報漏洩対策まで、幅広い内容をカバーしています。毎年教材を更新する手間を削減でき、効率的に社員教育を実施できます。
>>「個人情報保護」のeラーニング講座を見る
>>「情報セキュリティ」のeラーニング講座を見る
定期的に研修を開催する
個人情報保護教育は、一度実施すれば終了というわけではありません。定期的に研修を開催し、従業員の知識を継続的に更新していく必要があります。
最新の法令や情報に基づいた教育を学ぶ必要がある
個人情報保護を取り巻く環境は常に変化しています。特に企業として、法改正への対応は必須で、常に最新の情報を反映した教育が求められます。年に1回以上の研修実施が望ましいとされていますが、業種や取り扱う個人情報の量によっては、より頻繁な教育が必要になることもあります。
従業者の個人情報保護への意識を継続的に高める
個人情報保護教育の目的は、単に知識を与えることではありません。従業員一人ひとりが、個人情報保護の重要性を深く理解し、日常業務の中で実践できるようになることが重要です。
研修以外にも、日常的な啓発活動や社内でのインシデント共有など、工夫を凝らすことで従業員の意識を高い状態に保てるでしょう。
5.まとめ
個人情報保護教育は、企業にとって欠かせない取り組みです。本記事では、その重要性や内容、実施方法、注意点などについて解説しました。
最新の情報に基づいた研修を定期的に行うことが大切です。また、個人情報保護は従業員一人ひとりの意識と行動にかかっているため、教育を通じて意識を高め、日常業務の中で実践できるようにサポートすることが企業の責務といえるでしょう。
本記事を参考に、自社の個人情報保護体制を見直し、効果的な教育プログラムを実施していただければ幸いです。
i-netschoolはeラーニング事業歴20年以上。これまでのノウハウをもとに、eラーニングに関するお役立ち情報を発信しています。